本当は怖い腰痛の話・・・「怖い腰の痛みに陥らないために」

本当は怖い腰痛の話・・・vo.4「怖い腰の痛みに陥らないために」

本当は怖い腰痛の話・・・vo.4「怖い腰の痛みに陥らないために」

本当は怖い腰痛の話として、「動くこと」の重要性「生活習慣病としての腰痛」「腰痛の新規発生ならびに慢性化の危険因子」を院長便りとして書かせていただきました。今回はそのお話の最後として、「怖い腰の痛みに陥らないために」どうするのがいいかを述べさせていただきます。

 まず重要なことは「本当に」怖い腰痛を早期に診断して治療することです。癌の転移による脊椎の腫瘍、細菌による化膿性脊椎炎、骨粗鬆症が原因である骨折など特異的な腰痛を引き起こす疾病の鑑別が極めて重要です。これらの腰痛は命に関わることがありますので、問診、診察、補助検査でこれらでないことがわかれば私自身も本当に安心します。

 また、これまでお示ししたように腰痛には心理社会的要因が大きく関与しています。その評価に多くの問診票がありますが、当院では十分な評価はできていません。疑わしい腰痛であれば紀北分院の時からお世話になっている神経科の先生に御高診いただくことで痛みや身体の活動性が改善しています。

 腰の痛みのみではなく、お尻や脚に痛みや痺れなどがある場合は腰部での神経障害の可能性があります。身体所見と画像検査などの補助診断でこれらの症状が説明可能であり、薬物療法、運動療法、神経ブロックなどの十分な保存療法で効果がないときは手術が考慮されます。この十分な保存療法は、医療施設、担当医師により様々ですし、患者さんの好みも影響しますので、納得のいくご自身に合った治療法を受けられるのがいいでしょう。

お尻や脚に症状のない腰痛で「本当に」怖い腰痛でなければ運動療法が有効です。

 では何故、動くことが腰痛改善につながるのでしょうか?

 腰痛は体の「腰」の部分だけが関係しているわけではありません。痛みが起こると脳までが影響します。特に痛みと関係しているのが中脳辺縁系ドーパミンシステムと呼ばれるところです。痛み刺激が加わるとここでドーパミンという物質が作られ、エンドルフィンなどの脳内麻薬と結びついて下行性疼痛抑制系というところが活性化され、痛みが軽減します。

 体を動かすことによって、この下行性抑制系が活性化すること示されていますので、痛みが軽減するわけです。ストレス、不安、うつが長時間持続すると、ドーパミン産生が減少し、下行性抑制系の機能が破綻し、強い痛みが出現します。

 ドーパミンは「快」に関わる脳内物質で、この分泌が多いと、食欲や性欲がわき、やる気がみなぎるとされています。下行性疼痛抑制系に関係するセロトニンという物質も重要です。

 セロトニンは平常心をもたらす脳内物質で、この分泌が多いと、ストレスに対して動じない心をもたらし、頭のさえた、冷静な状態を保つとされています。家庭で行う全身運動(エアロビクス)にも痛み止めの服薬減少や気分の改善などの効果があることが示されていますので、これらの脳内物質が関係している可能性があると言われています。

 ウォーキングなどの有酸素運動をすることは破綻した下行性疼痛抑制系を活性化し、腰痛を軽減させ、いらだちや不安感などを消す効果があります。運動習慣のある人はない人に比べて生活満足度が高いという報告もあり、適度な運動を習慣化することで中脳辺縁系ドーパミンシステムが活性化され、ストレス緩和とともに生活の質を高めることにもつながります。

 体を動かすことが大事なのをお分かりいただけたでしょうか?

私も腹筋背筋やバス通勤などでウォーキングを続けていますので腰痛は自制内でそんなにイライラしたりしなくて済んでいるのかも知れません。

 運動療法は毎日できることが大事ですので、簡便な方法を勧めることが多いです。またできるだけ毎日、1回20分から30分ほどの歩行などで、体全体に汗がにじむ程度に体を動かすように指導しています。複雑な運動療法のパンフレットが多くありますが、いつでもどこでもできる運動がおすすめです。

 歩くことが目的でなく、どのようにすれば楽しく歩くことができるかを考えて体を動かすように指導しています。

何の指導も受けずに体操のパンフレットだけをもらった患者さんが来院されることがあります。体を動かしなさいという指導は正しいのですが、それが的確にできているか、痛いのに我慢して運動していないか?、関節障害や心臓疾患の原因になっていないか?など定期的に評価することが重要ですので私は必ず経過を見させていただくようにしています。

 簡単な体操で腰痛のみではなく、脚の症状や排尿の状態まで良くなる患者さんも見られます。

 でも長期間腰痛が続くと体を動かすのも嫌、歩く?とんでもないという患者さんがおられます。

 運動を習慣化するためには、運動をしたくない気持ちや状況をできるだけなくして、運動の効果を最大限に引き出せるようにすることが望まれます。まず、前述のように運動で痛みが和らげることができることを説明させていただいています。

 また、運動はつらいことや我慢しなければならないことではなく、楽しみながら実践できる運動の強さが習慣化のためにも必要ですので簡単な体操、運動から始めるように指導しています。

 快感が痛みを和らげることが証明されていますので、楽しく気持ちよく体を動かすことがポイントです。

 腹筋・背筋の増強訓練、ストレッチング、持久性運動などは腰痛発症を予防することが、また腰痛が発症した後には安静臥床よりも、痛みに応じた早期からの活動性の維持が腰痛の再発を予防するために有効であることが示されています。

 簡単な有酸素療法(ウォーキングやサイクリングなど)は前述の脳内での下行性抑制系の活性化を促し、ストレス発散や腰痛改善に有効です。ここでいう運動は身体機能に及ぼす副反応はほとんど起こしません。したがって、運動は腰痛改善に効果があるのみでなくその予防にも「有用」でありますので腰痛の有無に関わらず運動を推奨させていただきます。

 腰痛に対する医療費の高騰が叫ばれて久しいですが、腰痛治療の持続可能な開発目標 (SDGs) を考えると「運動」が一つの目標になると考えています。

あとがき

 日本国民の愁訴率の統計を見ますとこの10数年、腰痛は男性1位、女性2位を維持しています。腰痛に対する新しい治療薬や画像診断、治療法が開発されて、実臨床で使われてはいますが、この傾向は変わらないばかりか、男性では増加傾向にあります。ではどうすればいいのか?患者さんのみならず代替医療を含めた医療者側も本当の腰痛を十分に理解せずにいわゆる「診療」しているからではないでしょうか?これを読みいただいた皆様方には正しい「腰痛の診断・治療」が受けられることを期待します。

 日本国民の愁訴率の統計を見ますとこの10数年、腰痛は男性1位、女性2位を維持しています。腰痛に対する新しい治療薬や画像診断、治療法が開発されて、実臨床で使われてはいますが、この傾向は変わらないばかりか、男性では増加傾向にあります。ではどうすればいいのか?患者さんのみならず代替医療を含めた医療者側も本当の腰痛を十分に理解せずにいわゆる「診療」しているからではないでしょうか?これを読みいただいた皆様方には正しい「腰痛の診断・治療」が受けられることを期待します。

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